2024年12月19日、日本銀行は金融政策の現状維持を決め、物価上層の局面でも金利引き上げを見送ったことで、為替は円安に向かい、現在1ドル157円程度まで円安が進んでいます。
物価や賃金は上昇しているので、今後の政策金利の方向性は上昇していくと思われます。
一方、スイス国立銀行は2024年12月12日に0.5%引き下げて政策金利を0.5%にすると発表しています。
現在の日本の政策金利は0.25%ですので、スイスと日本の政策金利の水準はほぼ変わらなくなっています。
むしろスイスでは政策金利を0.5%からゼロ金利、さらにはマイナス金利を意識し始める水準となっています。
マイナス金利政策を貫き続けていた日本は、世界で見ると周回遅れで2024年3月にマイナス金利を解除しましたが、スイスは日本より前の2022年9月にマイナス金利を開場しています。
スイスでは日本より先に金利のある世界に戻りましたが、またスイスはマイナス金利に向かおうとしています。
スイスと日本は現在近い金利水準で、スイスは今後金利を下げようとする流れになってきています。
日本はスイスのように金利を下げる可能性があるのかを解説します。
スイスはマイナス金利に向かう
スイスは元々、景気刺激策のために、日本より低い水準でマイナス金利を続けていました。
しかしコロナウイルスやウクライナ情勢で世界がインフレに向かうと、通貨の価値を維持するために2022年9月にマイナス金利政策を解除しています。
一方、日本では日本銀行の黒田総裁のもと、政策金利をマイナス金利にするだけでなく、イールド・カーブ・コントロールも駆使しマイナス金利を続けていましたが、黒田総裁から植田総裁の代わり、今年2024年3月にマイナス金利政策を解除し、更に7月には政策金利を0.25%程度まで引き上げ、スイスに遅れること1年半後に、日本でも金利のある世界に戻ってきました。
日本では今年金利のある世界に戻ってきましたが、スイスでは逆に、今年2024年9月26日会合の声明文まで見られていた「今後数四半期にわたってさらなる引き下げが必要になる」といった利下げ予告にまつわる文言を発表していました。
さらに2024年10月1日に就任したばかりのシュレーゲル・スイス国立銀行総裁は、一段の利下げ余地を否定せず、必要ならばマイナス金利復活も躊躇しないことを示唆しています。
その上で為替市場にスイスフラン売りの介入する用意があるとも述べていて、通貨・金融政策を総動員して現在のインフレが進行する中で、中央銀行の金融引き締めの影響で、物価の上昇率が低下していく経済状況を食い止めに行く決意を発言しています。
スイスと日本の物価の違い
スイス国立銀行の掲げるインフレ率の目標レンジが0~2%であるのに対し、直近の11月は前年比0.7%とやや下方リスクが強まる状況です。
今回公表された2024年~2026年のインフレ率の見通しを見ても、政策金利を現行の0.5%と仮定した場合、2024年は1.1%・2025年は0.3%・2026年は0.8%と2025年にかけて一段と沈む見通しになっていいます。
スイスではインフレ率が来年再来年と続けて1%を下回る見通しです。
対して日本は本日生鮮食料品を除く11月の消費者物価が発表されましたが、前年同月比2.7%でした。
アナリストの事前の予想では2.6%でしたので、予測より日本の物価は上がっていると言えます。また12月の日銀短観も全企業の物価見通しは1年後は2.4%、3年後は2.3%、5年後は2.2%と、スイスに比べてまだまだ日本は物価は上がりそうです。
まだ5年は2%以上の物価上昇が続くとすると、仮に控え目に2%の物価上昇が続けば、現在100万円で購入できるものが5年連続2%の値上げで110万円になります。
5年を見通すと、まだ1割以上値上げになりそうです。
銀行にお金を預けていても、物価が上がれば実質の現金の価値は大きく下がってしまいます。
有名な経済の指標にビックマック指数というのがあります。
世界各国のマクドナルドで販売されているビッグマック1個当たりの価格を比較することで、原材料費やテナント費用や人件費を比較して、その国に物価の高さを比較すのがビックマック指数です。
スイスは何円も連続でずっと1位を続いていて、2024年10月現在のビックマックは1214円です。
日本は44位の480円です。
日本は中国・ヨルダン・ルーマニアの531円の次にビックマックを安く買える国と言えます。
超インフレで政策金利50%とありえない高い金利のトルコではビックマックは704円です。
日本は可処分所得が上がらず、物価高騰で苦しいとは言え、世界の中では日本より経済が悪くても物価が高い国は数多く存在するので、まだインフレに向かう余地はありそうです。
そのような状況ですからスイスは物価上昇が1%を下回り物価上昇が安定していても、日本はまだ当面は2%以上の物価上昇が続きそうです。
日本は通貨が弱い
2022年1月初頭から2024年12月初頭までの名目実効為替相場の変化率を比較したグラフです。
青の折れ線がドルで、赤の折れ線がスイスフランで、グレーの折れ線が日本円です。
2022年1月から比べると、ドルとスイスフランは通貨の価値が上がっていますが、3年でスイスフランは約14%上昇しているのに対し、円は約16%下落しています。
さらに1995年初頭から直近までの過去30年では、スイスフランが約47%上昇しているのに対し、円は約34%下落しています。
日本とスイスは現在同じくらいの政策金利に近づいているとは言え、スイスは政策金利を下げる方向を目指しているにもかかわらず通貨高が止まらないのに対し、日本は政策金利を上げても通貨安が止まらず物価上昇している違いがあります。
過去50年以上にわたる日本とスイスの貿易収支を比較したグラフです。
日本は青の折れ線で、スイスは黄色の折れ線です。
スイスは2000年以降徐々に貿易黒字であるのに対し、日本は2011年に東日本大震災の影響もあって大きく貿易赤字になった後、回復傾向になるものの、コロナウイルスやウクライナ情勢で貿易赤字にまた転落しています。
スイスは得意とする医薬品や時計は高付加価値財の代名詞のような品目で、通貨高があっても価格転嫁が容易だったのに対し、日本はモノづくりの拠点を、日本国内の製造から中国とするアジアを中心にシフトして長らく続くデフレでも生産コストを下げて対応していたのが、コロナウイルスやウクライナ情勢で円安になると、安く製造できなくなり、デフレで安さを売りにしていただけに、スイスのような付加価値をつけづらく、貿易黒字に持って行きづらくなっています。
日本では金利を上げないと物価上昇を止めにくいところまできていますが、為替相場だけではなく、日本とスイスの外貨を稼ぐ力の差で見てわかる通り、日本製のモノづくりが復活しない限り、物価上昇や金利上昇を止めることができません。
今回は政策金利が近いスイスと比較しましたが、スイスだけでなく、アメリカや他の先進国と比べても同様で、結局は、国として外貨を継続的に稼ぐことができる能力がないと、貿易収支は良くならず、通貨は弱いままで物価は上がってしまい、金利を上げざるを得なくなってきます。
日本銀行の政策だけでは物価や金利をコントロールできないところまで、今の日本は外貨を稼ぐ能力が弱くなっていると言えます。
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